黄緑絵の具
不思議な


悪魔を呼び出してしまった翌日。

大学に行くと、真っ先にアキラが声をかけてきた。

『出てきたか? 神』

アキラの目は期待でキラキラと輝いている。

僕はアキラに嘘をついた。

『何も起きなかったよ』

悪魔のことも、絵の具のことも。
昨夜のことは何一つとして話さなかった。
あの黒い紙も、押し入れの奥にしまい込んである。

一瞬でがっかりした顔に変わる。

『やっぱりあのばーさん、呆けてたんだろうな』

そう結論を出してアキラは話題を変えた。




講義を受けている時も、カフェでランチを食べている間も。

僕はずっと絵の具のことばかり考えていた。

色褪せたチューブ。
かすれた文字。


アルファベットだから英語だろうけど。

“エロ、イズム……エン”

何度見ても、そう書いてある。

どんな色なのかが気になって、そればかり考えていた。




講義を終えてアキラを待っていると、後ろから女の子の声。

『周平君、今度の日曜日ヒマ?』

誰だっけ。

記憶をフル稼動させてなんとか思い出す。

そうだ。レイカちゃんといつも一緒の……

たしかアリサちゃんだ。


『日曜日はバイトも休みだし、課題を仕上げるつもりなんだ。
アリサちゃんは終わった?』

『そっか。私もまだだから頑張る。
じゃあね!』


それだけの会話で、アリサちゃんはどこかに行ってしまった。

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