太陽には届かない
−3日後…金曜のランチタイムも終わりに差しかかろうとした頃の事だった。

陽菜は一大決心をし、良平の携帯電話に電話をかける。

5コールで良平が出た。


『もしもし?』


良平の声が聞こえると、陽菜の心臓はまた、跳ね上がる。

良平の声を聞くたび、姿を見るたびに、動揺させられるのは何故だろう。


『あの…相沢です…。あのね、今日、仕事終わったら会えないかな?』


その言葉にほんの少し、沈黙が生じる。


『…あの…ごめん。今日、林さんと約束があるんだ。』


良平の口から、意外な言葉を聞いた陽菜の顔は、真っ赤に染まる。


『そっか…分かった。じゃあまた今度にするね。』


『うん…ごめん…。』


陽菜はその言葉を聞くと電話を切り、その場にへたり込んだ。

まるで、全速力で走った後のように、脱力し、動悸がして、汗をかいている。

今、良平は間違いなく、上司のカオリと約束があると言った。

陽菜の脳裏に、数ヶ月前の映像がフラッシュバックする。

あの時二人は、喫煙室で談笑していた。

そして、カオリと約束があると言った今日は、金曜日の夜だ。

陽菜には、その真意が分からなかった。

平日の夜ではなく、何故金曜の夜なのか。たまたまなのか。

混乱していた。

トボトボとオフィスに戻る陽菜の目に、カオリの姿が見える。

カオリは普段通り、何も変わりないように見えるし、浮かれていたり機嫌がよかったとしても、ヒミツ主義のカオリは何も言わないだろう。

どうしようもなく不安な気持ちになっている。

それなのに、カオリにも、良平にも、約束が一体何なのか聞けない。



彼女ではない自分…



その事実だけが、全てを行き詰まらせ、陽菜の脳裏に、疑惑の念を刻み込む。

どんなに消そうとしても消えてくれない疑惑。



−どうなるんだろ…



残りの半日を、悶々とした気持ちで過ごしながら、ひたすら仕事に没頭したフリをする。


そして、退勤時間になると、カオリや良平の顔を見ることなく、避けるように帰路についた。
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