太陽には届かない

狭間

-翌朝。


『おはよう。』


泰之の声で目が覚める。

誰かの声で目覚めるのが、あまりに久しぶりだったので、陽菜は一瞬キョトンとしながら周りを見る。


『もうすぐチェックアウトの時間だから、支度して?』


泰之はすでに、洋服に着替えている。


『泰之…早いね。』


陽菜はゆっくりと起き上がると、髪の毛をクシャクシャとかきあげ、唇を尖らせながらシャワールームに向かう。


『陽菜は寝起きが悪いなぁ…。』


泰之は笑いながら、陽菜を捕まえ、キスをする。


『悪くないもん。泰之の起こし方が悪いんだもん。』


ますますふてくされる陽菜を、泰之は強い力で抱きしめる。


『陽菜…。』


陽菜は泰之の腕を振りほどくと、


『もぉっ、もっと早く起こしてくれたら、もっといっぱい抱っこ出来たのに!』


とシャワールームの中へ入っていった。

泰之はそんな陽菜を笑って見ていた。

陽菜はいつも、泰之の後に起きる。

大抵が寝ぼけていて、時々意味不明な事を口走る。

そして、シャワーを浴びて出てくる頃には、少ししっかりしてくる。

それでも気は抜けない。湯疲れして、ベットに横たわると、そのまま寝てしまうこともあった。

泰之は、ベッドに横たわり、陽菜が出てくるのを待つ。

程なくして陽菜が髪の毛をタオルで拭きながら出てくる。


『陽菜…例の件だけど。』


陽菜にはその言葉で泰之が何を言いたいのか、瞬時に理解できた。


『うん…。』


『考えてくれた?』


泰之のねだる様な、甘えるような声に、心が痛む。
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