触れないキス
柚くんは本を読むのも好きで、病室へ行ったり庭のベンチに座ってる時に会うといつも本を読んでいた。

みんなが知ってるような童話から難しそうな本まで、それはもう幅広く。

私が本の内容を聞くと、柚くんは喜んで話をしてくれた。


『かえるの王様』

『注文の多い料理店』

『ヘンゼルとグレーテル』


日だまりに包まれたベンチに二人肩を寄せて座って、未知の世界の物語にのめり込む。

柚くんの心地よい声と共に、流れていくこの穏やかな時間が、私は何よりも好きだった。



そうやって過ごしていくうちに、心細いなんて気持ちはいつの間にかどこかへ消えて無くなっていた。


毎日、毎日

柚くんの声を聞いて、笑顔を見て

一日、一日

私は柚くんのことを好きになっていく。


柚くんが私のことをどう思っていたかは分からない。

だけど、そんなことはどうでもよかった。

大好きな柚くんと一緒にいられれば、ただそれだけでよかったの。




< 12 / 134 >

この作品をシェア

pagetop