触れないキス
「……わかった」


少しの沈黙の後、私は涙を堪えて喉の奥から声を絞り出した。


「私が、柚くんのために……夢、叶えるよ」


泣くな──最後くらい笑え。


「結婚して、お母さんになって……誰よりも幸せな、おばあちゃんに、なる」


柚くんが望むのは、笑顔の瑛菜なんだから。


だけど、柚くんの薄茶色の瞳に映る私はやっぱり酷い顔で、とても可愛いなんてものじゃなかった。

それでも彼は愛おしそうに私を見つめ、天使と見紛うほどの綺麗な笑顔を向ける。


「ずっと言いたかったことがあるんだ」

「言いたかった、こと?」

「あぁ。……目を閉じて?」


そう言う柚くんの身体は、徐々に透けていってるような気がする。


「やだ……やだよ! だって柚く──」


“もう何も言わないで”と言うかのように、彼は私の唇に指をかざした。

私は唇を噛み締め、その姿をじっと見つめる。

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