触れないキス
春はついぼーっとしてしまいがちだけど、長い休みの後はさらにいけない。先生の話も右から左に抜けていってしまう。

休み中にあった出来事を楽しそうに話している先生だけど、いつも新婚の奥さんとののろけ話が主だからまぁいいか。


この教室の窓からは、昇降口から直線上にある校門まで見渡せる。

なんとなくその景色をぼんやり眺めていると、校門を入ってすぐのところに一人の男子生徒が立っているのが目に入った。


こんな時間に学校に来るなんて……間違いなく遅刻じゃない。新学期初日くらいは気合い入れようよ。

なんて、勝手に呆れていると。

その人は不意にこちらを見上げた。


「──っ!」


パチン!と音がするくらいにぶつかった視線に驚いて、私は思わず目を見開いた。

気まずい……はずなのに、視線を逸らせない。

一瞬で、私の意識をすべて捕らえられたかのように。


遠くてあまりはっきりとは見えないけれど、彼の顔はどことなく似ているような気がしたんだ。

8年前からずっと忘れることが出来ない、天使みたいだった男の子に。

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