触れないキス
「もうすでに上手だよ! 本物の画家みたい!」

「ふっ、それは言い過ぎだろ」


あ、今笑った……?

ほんの少し見えた横顔が、わずかに綻んだのが垣間見えて、

私の心にはなぜか、それだけで花が咲いたような喜びが広がった。


「……いつまで見てんの」


いつもの不機嫌そうな声にはっとする。


「気が散る。どっか座ってくれ」

「は、はい、スミマセン!」


何故か敬語になりながら、彼の背中からさっと離れる。

あぁでもどうしよう。どこに座ったらいい?

二人しかいないのにいつもの席に座るのも微妙な気がするし、正直、もう少し彼が描く絵を見ていたい。


「あの……そこ、座ってもいい?」


私が指さしたのは、そらくんの斜め前の席。

微妙な位置の指定に、彼は一瞬眉根を寄せたものの、「……勝手にすれば」と言った。



作業を始めて数十分。

しばらく黙って描いていたけれど、私はそらくんが気になって仕方なかった。


絵を見つめる真剣な眼差し

筆を走らせる長くて綺麗な指

そこから生み出される色鮮やかな光の花──。


絵からも、そらくんからも、繊細ではかなげな雰囲気を感じて、それがすごく魅力的で……

なんだか懐かしいような、不思議な気分に陥る。

< 40 / 134 >

この作品をシェア

pagetop