触れないキス
「何しに来た?」


突然彼が目線を落としたまま言葉を発し、驚いてびくんと肩をすくめた。

“何しに来た”って……ここはあなたのテリトリーか何かですか?

と言いたいところだけど、そんな勇気はないので普通に答える。


「ポ、ポスターを描きに……」

「ふーん」


興味なさそー……。

何よ、自分から聞いておいて。なんかイラッとする。

そういう自分は何をやってるのよ。

ポスターボードを取り出してそこから戻る時、後ろからそらくんの描いている絵をチラリと盗み見た。


──うわ、すごい上手……!!

黒に近い紺色の背景に、鮮やかに咲き乱れる花火の絵。

思わず息を呑んで見入ってしまうほど綺麗だった。


「すごい……めちゃくちゃ上手!」


黙っていられなくて、背後から覗き込みながら感嘆の声を上げた。

驚いたように、彼がくるりと振り向く。

彼の顔との距離が思った以上に近くて、また心臓が飛び跳ねた。


「……まだ描き途中だし」


すぐに前を向いたそらくんは、素っ気ない口調で言う。

でも、今は絵のクオリティーの高さがすごくて、そんなことも気にならない。

< 39 / 134 >

この作品をシェア

pagetop