触れないキス
「……そうか。いつか治るといいな」

「うん……でも、普段は全然平気だから!」


珍しく優しい言葉をかけて目を伏せるそらに、私は笑って答える。


「元々運動もあんまり得意じゃないし、足のことがなくても運動部には入らなかったと思う、たぶん!」


──本当は、皆で走り回って遊んでる友達を羨ましく思った時期もあった。

あの事故以来、両親は心配性になって私の行動を制限するようになっていたから。

今はもうそんなことはないけれど、小学生の頃は自分だけ輪に入れないような気がして、少し寂しい想いもしたのは事実だった。


そんな、しんみりしてしまう気持ちをごまかすように明るく笑う。


「それよりポスター描かなきゃね!」


そうして色を塗り始める私を、そらは無表情の中に切なげな色を滲ませた瞳で見ていた。


……また、あの時と同じような目。

どうして、そんな表情をするんだろう。

同情? それとも、私の心の内が読まれてしまったのか──。


そらは、その名の通り本当に掴み所がない、不思議な人だ。

だけど二人きりでいるこの時間は、たとえ無言でも、冷たくされても、居心地が悪いとは感じない。

その理由はきっと、彼が柚くんに似ているせいだけではないと、私は気付き始めていた。




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