家元の花嫁【加筆修正中】


スッと襖が開いた。


深緑色の和服姿のご隠居が入って来た。


久しぶりに見た気がする。


そう言えば、今年の初釜は体調不良で欠席したから…半年振りか?


ご隠居は炉の前に腰を下ろした。


ゴクッ。


俺は緊張のあまり、生ツバを飲み込んだ。


「隼斗、久しぶりだな。元気だったか?」


「はい、お久しぶりです。ご隠居もお変わりありませんか?」


「あぁ、変わりない。で、そちらは?」


ご隠居がゆのを見ている。


普段ならこんな堅苦しい話し方はしない。


しかし、ここは茶室。


茶室に1歩足を踏み入れれば、祖父と孫の関係ではなくなる。


「彼女は自分の婚約者、園宮ゆのさんです」


「初めてお目にかかります。園宮ゆのと申します」


ゆのは畳に綺麗に指を揃え着き、お辞儀をした。


「ほぉ、そなたがゆのさんか。家元より聞いておる」


ご隠居は扇子を手にして…


「で、今日はわしに茶を点てに来たのだな?」


「はい。宜しくお願いします」


俺は挨拶をし、お辞儀をした。




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