小さな幸せ
「俺は父親が好きだったんだ。


 母、母さんはいつもマンガばっか描いてたから、

 小さい頃から父が俺を育ててくれたんだ。


 父さんは教員で、母さんは教え子だったんだ。


 だからかな、母さんはいつだって自由で、


 父さんはそれを嬉しそうに見つめていたよ。


 父さんの大きな愛に包まれて、

 俺も母さんも幸せだったんだ。


 父さんが亡くなったのは寒い朝だった。


 いつものように俺が起こしに行ったら

 冷たくなっていたんだ。


 眠るように、静かな死だった。


 余りにも呆気ない別れに、

 俺も母さんも暫く抜け殻のようだった。


 そして、俺達は母の実家へと身を寄せたんだ。


 そのすぐ後、祖母が亡くなり、

 俺達は居場所を失ったんだ。


 そんな時、母のファンだという外国人と知り合ったんだ。

 それが今の義父だ。


 当時38歳だった母、

 彼は未だ22歳だった。

 彼の好意で、今の実家に身を寄せることになったんだ。

 彼は、大学を卒業したてで、

 日本を拠点に展開する家業の運輸業を継いで

 若くして取締役をつとめていた人で、

 俺は、兄のように慕っていた。


 まさか母と結婚するなんて思いもしなかった。

 そんなある日、母のお腹に毬乃がいることが判ったんだ。 
 

 ショックだった。


 どうしたら子供ができるのか、想像したら吐き気がした。




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