キミの知らない物語。【完】
悠也がこんなに喜ぶことをしてあげられない。
悠也を笑わせてあげられない。
あたしじゃ菜乃子の半分も悠也を嬉しそうにしてあげられない。
――あたしは菜乃子に、敵わない。
「……じゃあ、帰るよ、あたしは」
これ以上ここにいたら泣いてしまいそうで、あたしは立ちあがる。
「おう。さんきゅ」
いつになくご機嫌の悠也は、玄関まで見送りに来てくれた。
「……菜乃子にメール、してあげなね」
「言われなくてもするっつの」
「ふ、だよね。ならいいんだ」
「ほんとありがとな」
「いいって、その分菜乃子に言ってやってよ。大切にしてあげて」
「わかってるって」
「ん、ばいばい」
――バタン、と音を立てて、ドアが閉められ悠也の姿が視界から消えた瞬間、抑える暇もなく鼻がツンとして、涙が溢れ出てきた。
どうすれば、この気持ちは消えて、くれますか。