深海の眠り姫 -no sleeping beauty-





周りも少しずつここの雰囲気の悪さに気づきだし注目を浴びていく。


(…みんな見てるのに)


どうすればいいかわからない私が直人さんを見上げると、瀬里香さんがたまらず声を上げた。



「待ってよ!今話しかけてるのは私なのに」


すると、直人さんは私の腕を引く。



「―――私の妻となる人に無礼を働かないでいただきたい。…せっかく好評だったCMに泥を塗るおつもりで?」


静かに、でも、相手の急所を刺し殺すような低い声でそう訊ねた。
直人さんはなにも言えないでいる瀬里香さんに見せつけるように私の手を取ると、手の甲にそっと唇を落として。



「…では失礼いたします。またお仕事で、お会いしましょうね」


そう言うと、足早に会場を抜けるのだった。





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