深海の眠り姫 -no sleeping beauty-





「―――柿崎部長。この子、体調不良みたいなんで連れて帰ってよろしいですか?」


よく通るその大きな声に、経理部の誰もが私の方を向いた。
…そりゃそうだ。この人経理部じゃないし。


名指しされた柿崎部長は最初こそいぶかしんだ視線を向けてきたのに、何かに気づいたようでこちらに走ってやってくる。



「………あ、芦谷取締役!?どうしてこちらに」


「まぁまぁ、そこはお気になさらずに。…で、いかがです?この子、帰していいですか?」


彼がそう訊ねると柿崎部長はこくこくと頷く。その返事に満足したのか、彼は私を座らせて勝手に私の机周りを片づけだした。
私が止めようとしても全く言うことを聞いてくれない彼はさっさと片づけを終えて、私を担ぎ上げると経理部をあとにするのだった。





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