深海の眠り姫 -no sleeping beauty-





『―――――環、動いちゃ駄目よ…』






十年以上も昔のある日の晩、いつものように酔っぱらって帰ってきた“おかあさん”はそう言って私の足に手錠のようなものをかけた。


太くて私にはどうすることもできない鎖がついた枷は数十センチ分の長さしかなく、台所にもトイレにも近づけなくなった私を見て、“おかあさん”は冷たく笑った。



『環、さようならよ。助けなんか来ない。このまま死んでしまいなさい』




………言葉の意味はよくわからなかった。


でも、その冷たいまなざしと口調に心底恐怖を感じた私は泣きわめいて縋ろうとした。
しかしそんな私を蹴り飛ばすと、“おかあさん”は部屋の外で待っていたらしい男の人とどこかへ行ってしまったのだった。





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