あなただけを愛したい
「暴走族の総長の座を他の人に譲って、あんなに大切にしていた仲間と離れてまで、教師を目指し始めた航には言えなかった」



そう言いながら、茜さんは涙を流した。


そんなこと、あたしに言われても困る。



「だから、あなたから言って」


「え?」



茜さんは、真剣な瞳をあたしに向けながらそう言うけれど……


言うって、何を?



「あなたから別れを切り出して」


「えっ!?」


「航は、あたしとは一緒になる気もないし、あなたとは別れないって言ったわ」



ほんとに?



「でもね、航の子供なのよ」


「……」



それを言われたら、あたしには何も言えないよ。


子供には何の罪もない。


でも……



「どうして、今さら会いに来たんですか?」



もっと早く……


航と付き合う前に……


ううん、あたしが航と出会う前に会いに来れば……


こんなに辛い思いはしなくてすんだのにっ。
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