愛★ヴォイス
「……ええっと……真下さん?」

呼ばれて顔を上げると、少し落ち着きを取り戻したらしい彼の表情があった。

普段通りの美声に戻っている。

「失礼を承知で言いますけど、真下さんの具合が悪くなって、たまたま介抱したのが俺だったから、何か勘違いなさってるんじゃないですかね……?」

「そんな!」

否定したいものの、なかなか次の言葉が出てこない。

「それとも、三田が役者なんて紹介するからーー確かに演技の勉強はしてますけど、もちろんそれだけじゃ食っていけなくて……言うなればフリーターですよ。今日集まった皆さんとは、住む世界が違うっていうかーー」

「あのっ、私、桐原さんの舞台が観たいんです。それじゃ駄目ですかっ??」

食い下がる私に、彼はたじろぎながらも言った。

「ーー狭い小劇場の端役だったりしますよ?」

こくこくと私は力強く何度もうなづく。

彼との縁をここで手放すわけには行かない。

「次の舞台なんか女装ですよ、女装」

うんうん。構うもんか。むしろ観たい!


「ーー……わかりました。じゃあ次の舞台のチケット、買ってもらえます?2500円。招待じゃなくて、購入ですよ。基本的にこういうチケットは自分たちで手売りしてるんで」

「構いません」

はっきりきっぱりそう告げると、彼はやっと諦めたようだった。
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