愛★ヴォイス
「はい?」

「私、桐原さんの連絡先が知りたいです」


勇気を振り絞って、私はしっかりと彼の瞳を見つめてそう告げた。

こんな機会はもう二度と無い。


しかし彼は明らかに狼狽していた。

商売道具であるはずのその声も多少うわずっている。

「ちょ……ちょっと真下さん、変な気の使い方やめて下さいよ」

「そんなんじゃありません。私本当にーー」


言いかけてはたと気が付いた。

私は何を言おうとしていたんだろう。



“アナタノ【声】ガ、スキナンデス”


そんな失礼な話があるだろうか。

確かに声優ならば、その声を誉められて悪い気はしないだろう。

しかし、彼はここまで声優業のことには一言も触れていないし、大学時代演劇サークルに所属していたことといい、役者という表現を用いていることといい、おそらく本業は俳優なのだ。

そんな彼に向かって

「あなたの声が好きなんです。だから連絡先を教えて下さい!」

なんて言えるはずがない。

だからと言って、彼の舞台を観たことがあるわけでもないし……どうしたらーー。

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