鏡【一話完結型】


『信じるも、信じないもそれは主次第だ。
だが、それは真実だ。
主が自害して悲しむ人は他にいない。
母親だけだ』


その言葉に、ツーっと由香里の頬を涙が伝った。

予想外の相手に戸惑った由香里だったが、母親がまだ自分を愛してくれているのかもしれない。
そう思ったら、涙が止まらなかったのだ。


愛されていない。
そう、思っていたけど。

由香里への愛し方、接し方がわからなかっただけかもしれない。


それであっても、そうであっても。
由香里への暴力は許されるモノではなかった。


だけど、由香里にとってそれはもう、どうでもいい事の様に思えた。

由香里は、母親の愛情を欲していたから。


「…ありがとう、鏡の中の住人さん」

『………』


それから、由香里は鏡の主に満面の笑みを向けると洋館を後にした。


『………』


たった、それだけで。
積年の暴力行為を許せてしまうのだろうか。

言葉にする術なら母親は持ち合わせている筈なのに。


鏡の主は、やはり人間の思考など理解が出来なかった。


鏡の主を見ても動揺すらしなかった小娘が、たったあれだけであそこまで取り乱せる。


『…やはり人間とは不可解だ』


腕を組みながら、それについて考えてみようと。
鏡の主は鏡の奥へと消えて行きながら思った。


           Fin.

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