ユビキリ。


「私、そろそろ帰るわ。」


私は言って立ち上がった。

皆の視線がこちらに向けられる。


「えーっまだ一次会も終わってないのに。」


言われて、私は苦笑を返した。



「ゴメン、この後用事があるんだわ。」



言って手を合わせる。

「何の用事よ。」
だとか、
「私達より大事だっていうの?」
とか、
「やっぱり彼氏が。」
だとか言う声が飛び交った。



皆は覚えていないのだろうか。

忘れてしまったのだろうか。

今日を選んだのは、偶然だろうけれど。


私には、今日は特別なのだ。


「どこ行くの?すぐ終わるなら2次会合流してよ。」


言われて、

私は首を振った。



皆、
ノリが悪いなって顔をした。




「今日は翔の日だから。」




私はそれだけ言って、

じゃあねと手を振ると、

店を足早に出た。



今から歩けば、

間に合うだろう。


歩き慣れた道だ。


何度も歩いた道。





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