カメレオン
紫気分

間宮

森麗子は間宮からプレゼントされた、小粒パールのピアスとシャネルのルージュ〈ココシャイン〉を付けて、鏡に向かった。
「麗ちゃんはこんなふうにパールと赤いルージュ付けるだけで、グッと大人っぽくなるよ。うん、セクシーだよ。」間宮に言われた言葉を思い出し、確かにっと頷く。

 大人な気分に切り替えて、麗子は間宮の元へ向かった。
「麗ちゃん。今日は最近オープンしたイタリアンに行こうと思うんだ。」
麗子は間宮の運転するメルセデスの窓から、もうすぐクリスマスを感じさせるイルミネーションを眺めていた。
「どこでもいーよ。お腹すいたからなんでもいい。早くご飯食べたい。」
「どこに行こうか悩んだのにそれはないよー」
「まあちゃんはセンスいいから、どのお店も美味しいって思ってるもん。」
間宮と行く店は、高級店でなくても美味しいお店ばかりだと、麗子は心底思う。やはり、マスコミで働いていると自然と詳しくなるのだろうかと考える。
 「さすが!あの橋本さんのお弟子さんだけあって腕がいい。この赤ワインによく合うよ。麗ちゃん、ワインどんとん飲みなよ。」
まだ酒が飲める歳になったばかりの麗子には、ワインの美味しさも有名シェフの名前もわからない。料理が美味しくて、麗子は自然と顔がほころんだ。
「麗ちゃん、今日お泊まりしてかない?こんないい気分なんだからさあ。」
「うん、別にいいよ。学校は明日午後からだし。でもまあちゃんは家大丈夫なの?」
「平気、平気。新しく制作するドラマのことで忙しいから、最近は家に帰らないことよくあるし。でも今日は麗ちゃんに会いたいから、仕事切り上げたんだからね。」
ふーん、麗子はそう言ってワインを口に運ぶ。喉の奥が渋い。麗子はワインを美味しいとは思わないが、大人な気分にさせてくれるからわりかし好きだ。ほろ酔いになった麗子は間宮の顔を眺める。悪くない、麗子はそう思う。40歳という年齢よりは若々しく見えるし、何と言っても大人のセクシーさや余裕さが麗子にとって、すごく魅力的に見えた。だから麗子はこの男と食事をしたり、キスをしたり、セックスをすることに何も抵抗を感じない。むしろ、間宮のような人間と繋がっていることが心地良く感じるのだ。大学生、いや麗子より少しばかり年上な男と付き合っていたとしても、間宮がさせてくれる体験の足下にも及ばないだろう。そうしてまた麗子は間宮と深く、濃い関係になってゆく。この充足感。もう逃れられない。
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