ヒコーキ雲に乗って
どのぐらいそうしていただろう。
陽介が立ち去った寂しいパソコンルームで、変わらない画面を見つめながらただひたすら本能のままに涙を流していた。
(…もう帰ろう。)
ここでこうしていたらもっともっと悲しくなるだけだ。
そう思い、席を立ち上がろうとしたその時、人気のなくなった寂しい部屋の扉が乱暴に開いた。
突然の事に驚き、扉の方を見る。
そこには、汗をかき、息を切らした陽介が立っていた。
「…ヨウスケ…」
びっくりしすぎてしばらく声が出せずにいたが、やっとの想いで口から出た言葉は、愛しい四文字の言葉だった。
今にも泣き出しそうな私の顔を見て、愛しい人が微笑む。
「香澄。キャッチボールやろか。」
そう言い、右手に持っていた紙袋からくたびれたグローブを一つ取り出し、こちらに放り投げた。
「ほれ行くぞ!こんな暗い狭いとこにおるからそんな悲しい顔になるねん!」
素早く歩き出した陽介に遅れない様、慌てて就活用に買った真っ黒な鞄とグローブを手に取り後ろをついていく。
背の高い陽介についていくのは大変だ。
歩幅を最大に広くして急いで歩きながら、胸の中にしっかりと抱きかかえたグローブにふと視線を落としてみた。
そこには黒い油性ペンで書かれた「橘陽介」という色褪せた文字があった。
そっと、今にも割れてしまいそうなガラスに触れる様にそっと、その文字を指でなぞってみる。
このグローブを取りに行くために、大学から自転車で20分はかかる陽介の家までわざわざ戻っていた事。
何も言わなくても落ち込んでいる私に気付いてくれた事。
私を元気づけるために、自分の時間を割いてくれる事。
その行動の全てが、あまりにも陽介らしくて、嬉しくて、切なくて、愛しくて、せっかくひっこんだ涙がまた一粒、もう一粒、次々に流れ落ちてくる。
前を歩いていた陽介が、少し振り向く気配がした。
それでも流れてくる涙を止める事は出来ず、ひたすらうつむきながら後ろをついて行く私を見て、何も言わず、また前を向き歩き始めた。
陽介が立ち去った寂しいパソコンルームで、変わらない画面を見つめながらただひたすら本能のままに涙を流していた。
(…もう帰ろう。)
ここでこうしていたらもっともっと悲しくなるだけだ。
そう思い、席を立ち上がろうとしたその時、人気のなくなった寂しい部屋の扉が乱暴に開いた。
突然の事に驚き、扉の方を見る。
そこには、汗をかき、息を切らした陽介が立っていた。
「…ヨウスケ…」
びっくりしすぎてしばらく声が出せずにいたが、やっとの想いで口から出た言葉は、愛しい四文字の言葉だった。
今にも泣き出しそうな私の顔を見て、愛しい人が微笑む。
「香澄。キャッチボールやろか。」
そう言い、右手に持っていた紙袋からくたびれたグローブを一つ取り出し、こちらに放り投げた。
「ほれ行くぞ!こんな暗い狭いとこにおるからそんな悲しい顔になるねん!」
素早く歩き出した陽介に遅れない様、慌てて就活用に買った真っ黒な鞄とグローブを手に取り後ろをついていく。
背の高い陽介についていくのは大変だ。
歩幅を最大に広くして急いで歩きながら、胸の中にしっかりと抱きかかえたグローブにふと視線を落としてみた。
そこには黒い油性ペンで書かれた「橘陽介」という色褪せた文字があった。
そっと、今にも割れてしまいそうなガラスに触れる様にそっと、その文字を指でなぞってみる。
このグローブを取りに行くために、大学から自転車で20分はかかる陽介の家までわざわざ戻っていた事。
何も言わなくても落ち込んでいる私に気付いてくれた事。
私を元気づけるために、自分の時間を割いてくれる事。
その行動の全てが、あまりにも陽介らしくて、嬉しくて、切なくて、愛しくて、せっかくひっこんだ涙がまた一粒、もう一粒、次々に流れ落ちてくる。
前を歩いていた陽介が、少し振り向く気配がした。
それでも流れてくる涙を止める事は出来ず、ひたすらうつむきながら後ろをついて行く私を見て、何も言わず、また前を向き歩き始めた。