佐久間と希奈子とチョコレート
タイトル未編集

「春っすなー」
満開の桜の下で呟くのは、希奈子(きなこ)。手に持っているスーパーの袋には大量の板チョコレートが入っている。



轟音を立て大きな機体が空へ飛び立って行く。その姿をベランダから見る男、佐久間。
ひとつため息をつきソファへ座った。
「あのバカ。どこまで行ったんだ」無情にも壁の時計は時を刻む。
数分後、玄関の開く音がし女の子のが1人部屋に入ってきた。
「ただ今帰りやしたー」テンション低く言う。
その手に持っているスーパーの袋には大量の板チョコレート。希奈子だ。
「お前どこまで行ってんだよ。ずいぶん遅かったじゃねえか」と少し立腹気味に話す佐久間に希奈子は「別にどこまでだっていいじゃないっすか。あ。これお土産っす」と折れた桜の枝を手渡す。
佐久間はため息をつき、桜の枝を持ったままキッチンへと消えた。コップに水を入れ、桜の枝を立てる。
「春だな」佐久間も呟いた。



「佐久間さん、何か仕事来ましたか?」とTVを観ながら一応、希奈子は聞いた。
「来ねえよ」いつものように佐久間は言う。
テーブルに置いたコップに入ったこの桜はいつまでもつのだろうと佐久間は考えていた。何か、花瓶になるような物を買わないとな。
ふと前を見ると、下を向きすでに希奈子は眠りについている。真っ昼間だが、希奈子には関係ない。
小さい子供のようにすぐ眠りにつくのが希奈子の特徴だ。
佐久間はTVを消し、希奈子にタオルケットを掛け出かけた。
外に出ると春の暖かい風が吹く。
「あ、何でも屋さん!この前はありがとうね~」振り向くと腰の曲がった老婆が手を振っている。
先週、障子の張り替えを依頼して来た得意先の高田の婆さんだ。
「今日は、希奈子ちゃん一緒じゃないのかい?」高田の婆さんは希奈子を気に入っている。
留守番してると言うと「んじゃあ、これ2人で食べて」とたい焼きをくれた。
佐久間は礼を言い歩き出す。



ビクッ。「んぁ!‥って夢か」静まり帰る部屋であくびをしながら伸びをする。時計を見ると2時間は寝たようだ。
佐久間の姿はないがテーブルを見ると、拾ってきた桜の枝は、花瓶代わりのコップから可愛らしい花瓶に変わっていた。



その頃、佐久間はベランダで煙草を吸っていた。空港から飛行機の飛び立つ姿が見えるこの場所は佐久間のお気に入りだ。ふぅーと煙を吐く。一服を終え部屋に戻ると希奈子は起きていた。

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