夜明けの星
『思い出したかい?』

突然、声が響いた。


…そう、思い出した。

今日はとても乗客が少なく、運転手の自分を含めても五人しか車内にはいなかった。

ここにいる老人もサラリーマンも少年も女性も乗客だった。
自分が乗車券を切ったのだ。

バスは定刻に出発し、道中たいした渋滞もなく、順調に目的地へ向かっていた。

…そうだ、そしてトンネルに入った時…

『君達は死んだんだよ。』

また響く声。

自分以外も皆、記憶を巡らせていたのだろう。

声の内容よりも、その前触れのなさに肩を震わせた。

しかし、一瞬で我に帰る。
「はぁ?どういうことだよっ。」
「何?死んだって…えぇっ?!」
「いつ?何で?…えっ?じゃあ俺は?!」

各々の驚きと疑問を、感情のまま口にすると、“声”は淡々と答えた。


『ですから、あなたたちはお亡くなりになったのです。

午後10時45分新宿発の高速バスに乗車。
翌午前1時38分、通過中のトンネルが崩落。
巻き込まれたバス車内にいた5名、即死。
…これがあなたがたの最期です。』


「………。」

誰一人言葉を出さない。
“声”は続けて言う。

『只、あなたがたはまだ“あの世”へは逝けません。』
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