三毛猫レクイエム。



 帰ってきた私は、ベッドに倒れこんだ。
 そんな私の中で、裏切りという言葉がぐるぐると回っていた。

 私は、あきのことが好きだ。それに忘れられないと思っているし、忘れたくないとも思っている。
 だけど、ヒロに惹かれているのも確かだ。
 それを否定する気はない。

 大勢の人が、それを快く思っていないらしい。

 決して、軽い考えでヒロと一緒にいるわけではないし、私達の中に葛藤がなかったわけじゃない。
 あきのことを、軽んじているわけでもない。
 だけどそんなことは、ヒロと私が一緒にいるという事実の前には、なんの意味もなさないのだろう。

「……あき……」

 あきの言葉を胸に、前に進もうと思った。
 閉じようとしていた目を、ヒロに向けてみようと思った。

 私がなけなしの勇気を振り絞って、やっと踏み出した一歩は、こんな形で水を注され、奪われてしまった。


 部屋で呆然としている私の目から、涙が流れる。
 いつものようなあふれ出るような激しい涙じゃなく、ただ静かに目元から零れ落ちる涙を、私はぬぐいもしなかった。

 やっぱり、私がした決心は間違っていたのかもしれない。
 ヒロに惹かれたのが、間違いだったんだ。
 私は、一生あきのことだけを想い続けなくてはいけなかった。

「……あき、ごめんね……・」

 そう思った瞬間、あきに対する罪悪感が膨れ上がる。

 いったい、あきは私に何を望むのだろう。
 私が前に進むこと?
 私があきのことを想い続けること?

 あきが、私を置いて逝きさえしなければ、何もかもが上手くいっていたのに。
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