欠点に願いを





休憩時間になり、俺は照明や音響の調整室から体育館の床に降りてきた。
体育館の横の水道で水を飲み、軽くストレッチする。


「浩太先輩、お疲れ様でーす」

「おぅ、お疲れ様」


声をかけてきたのは、ココだった。
顔を見れない。


「……浩太先輩。一つ、相談しても良いですか?」

「俺で良ければ」


体育館に戻ってきた俺とココは、適当に床に座る。


「あたし、発声練習の時にどうしても大きな声で発声出来ないんです。普段は大声で喋れるのに。……どうしたら良いですかね?」

「あ~。……誰かに届ければ良い、と思う」

「誰かに届ける?」


きっと、ココの目を見てしっかり話せば、説得力も倍増するのだろう。
でも俺の意見なんて大事にとられても困るし、ココの目を見たら俺が緊張で喋れなくなると思う。
…きっとココも、俺を見てないだろうし。


「そう、誰かに届けるの。その場に居ない誰かに声を届けるつもりで発声すれば、たぶん大声で発声出来るようになると思う」

「その場に居ない誰か?」

「うん、誰だって良い。少なくとも、俺はそうしてる」


話してる間に、少しだけココを見た。
…………驚いた。ココはずっと、俺を見ながら話を聞いていたらしい。
少し緊張して、目を合わせないように逸らす。

しかし、ココは見逃さなかった。


「……浩太先輩、こっち向いて下さい」





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