愛をくれた神様
父がつぶやく…

「このハガキを、出しにいくために……。」

父はへなへなと床に座り込んだ。肩を落とし、ごつごつした手でハガキをなでる。兄のいなくなった、日付がはっきりとそこに書かれている。

父のそばに座る。
ボディーソープの香りがした。兄と、父が一緒にお風呂に入っている古い記憶が蘇った。それも僕が封印していた記憶だ。目の前がかすむ。

父は、震える手でハガキを、そっと置き……

 兄が死んで、15年たって、やっと、現実を受け入れ……、そして泣いた。


なんでやねん、なんでカズシやねん、俺の息子や!立派な俺の息子やったんやぁ!!なんでやぁ、 なんであいつが死ななあかんかったんやぁ、なんで俺やないんやぁ!

ひたすら声をもらし肩を振るわせる、父の肩に手を肩れ、僕もいつのまにか泣いている事に気がついた。 父同様、僕もまた、現実を受け入れれてなかったのだ。記憶を閉じこめ、誰とも心から交流をせず、兄をなんとなく思い出す事はあっても、そんな存在がいたはずの、孤独な現実が怖かったのだ。


僕は今、初めて、心から「寂しい」と思った。


あふれたものが僕の目からも、溢れでた。


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