廻音
やがてポツリと呟く声が聴こえた。

「確かに在るものが無くなってしまいそうな胸騒ぎがしたら…廻音は、どうする?」

違う、誰かであれと願うように私の影をジッと見つめる彼女は、さっきよりももっと泣き出しそうな表情だ。

「判らないよ、そんな事は。ただ…失くして気付くような馬鹿はしない。
大切な物は失くさなくても大切だもの。
後悔するくらいなら失くす前に手に入れるわ。何をしてでも。」

そうだよ。それこそ「壊してしまえば」良かったんだ。
来世こそは、輪廻の果ては、今生だけでも。
そんなのは綺麗事だと思った。

いつだって「今」なのだ。

「奪ってしまえばよかったのに。」

あの表情のまま、私の顔に焦点を合わせる。
しかし瞳は揺れている。

奪ってしまえばよかったのに。
失ってしまうなら、来世を夢みるなら、泣いてしまうのなら。
壊してでも、奪ってしまえばよかったのに。

姉の中に生まれた感情が、何者なのかは解らない。
しかし諦めたように首を振った彼女は、やがてポツリと
「廻音は強いんだね。」と言った。
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