‐彼と彼女の恋物語‐
――――……誰ひとりといない見慣れた店内を駆け抜けて外の世界とを遮る一枚のそれに手をかける。
震えなど、もうない。
開けた視界。そこに広がるはずのビル街は大好きな香りのするジャケットに様変わりしていた。
「おかえり、コト」
彼女の身体に回る腕は、彼のものだ。久しぶりの心地よさに息がつまる、好きが溢れてくる。
「コト、顔見せて」
髪に差し込まれたそれがするするとゴムをはずしていく。風に揺れる茶色い髪はふるふると拒否を示す。
「小音」
「やだ、やだやだ…」
「大丈夫、こっち向いて」
「嫌…嫌々嫌、嫌」
「こっち向けって、コト」
思ったよりもしっかりと言葉を介してくれる彼女にほっと胸を撫で下ろす彼。しかし、顔をあげてくれないのは不満である。
そっと耳へと唇を持っていき名前を囁くと小さな身体が震え、観念したようにゆっくりと伏し目がちに顔をあげた。
「――――……先生」
「うん、上出来」
見えた唇に自分のものを重ねた。半年ぶりのキスだ。