エゴイストよ、赦せ
僕はこの部屋でひとり、ローサの帰りを待っている。


静かだと思っていたエアコンが、うるさいと感じる。

僅かなファンの音から、微かに不安を感じる。

真夜中、時計の針の音だけが生き残る、あれと同じだ。

カチ、カチ、カチ――終末へと時間を刻んでいるみたいで、僕はあれが嫌で。

だから、時計は全部、デジタルに変えてしまった。


エアコンを止めてやろうかと思ったんだ。

でもすぐに、帰ってきたローサが寒いだろう、という考えが浮かんだ。

他人のことを考えている自分。

煩わしいと嬉しいが、8:2の比率。


結局、何かをして気を紛らわそう、と考えた僕は、キッチンの前に立った。


夕食を作ることにしたわけだ。

これは、文字通りの夕食。

僕もローサも連休なので、昼間なのに起きている。

時差の調整なんだ。

地中から地上への、小旅行。


立派な桐製の米びつが目に入る。

正面の真ん中に“米”という大きな文字。

おでこに“肉”と書かれたヒーローの姿を思い出した。

そんなことが思い浮かぶのは、余裕が出てきた証拠だろう。

少し安堵。
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