瞳を紅に染めないで。
「おーや!
やっぱり、降ったねぇ」
「!!」
誰もいないはずの廊下でいきなり聞こえた間延びした声に思わず肩が揺れた。
振り返れば、前髪で顔が覆われた長身の男が立っている。
はっきり言って、不気味だ。
「こーんにーちは、お嬢サンっ」
そんな私をよそに、謎の男は私に手を差し出す。
大きくて、白い手だ。
「ゲラゲラッ!
お嬢サンはぁ、なぁんでそんなに面白い顔をしてるのぉ?」
「し、失礼な」
なかなか差し出された手を握れずにいると、ぶにぶにと容赦なく私の頬をつまむ。
「あ、あなひゃは、誰なんれふか」
つままれていて言葉にならない私の声を、謎の男は気にもせずにっこりと笑みを深めた。
「ひぃみぃつぅ」
「え?」
つまむ手が離される。
でも、薄くあいた唇が私に近づいて、
ペロリと生暖かい舌が私の頬を這った。
「ひぁっ」
思わず悲鳴に似たものが漏れる。