期間限定の婚約者
 新垣さんとお見合いをしてから、3か月が過ぎる。
知ってしまった。
 新垣さんが忘れられない女性を、私は知ってしまった。
 秘書課の池内ゆかりさんが教えてくれた。

 ネイリストの冬馬 綾乃さん。
 とても綺麗な人だった。

 私じゃ、かなわない人だと、ネイルをしてもらって痛いほど感じた。
 あの人を忘れらないなら、私にはもう勝ち目はないと。

 新垣さんの一人暮らしをしている部屋で、洗濯物をたたみながら、わたしの胸が苦しくなった。

 あと一か月。
 私の恋は、あと一か月で終止符を打たなければならない。
 それのもう、決定事項だ。覆せない。

 新垣さんの好きな人を間近で見て、勝てないと分かったから。

 新垣さん自身も、冬馬さんと再会していると池内さんから聞いた。
 夏木課長の奥さんとして、つい最近になって再会したのだそう。

 好きな女性がすでに結婚している事実を知るだけでも相当つらいと思う。
 その結婚相手が、新垣さんにとって昇進のライバルである夏木課長だったなんて。
 残酷すぎる現実だ。

 新垣さんの大きなTシャツをぎゅっと抱きしめると、こぼれ落ちそうになる涙をぐっと堪えた。

 新垣さんの匂い。幸せな匂いなはずなのに、苦しいよ。

 ガチャッと玄関のドアのかぎが回される音がした。
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