期間限定の婚約者
 私は耐えきれなくて滲み出た涙がぬぐうと、立ち上がって玄関へと足を向けた。

 泣いてたと知られないように、笑顔をつくりあげた。

「あぁ、来てたのか」と、新垣さんがそっけなく声を出す。
 ガラガラとキャリーケースを引き入れながら、新垣さんが家の中に入った。

「今日は出張から帰ってくる日だと聞いていたので。洗濯物がおありかと……」
「あ、これな。腹減った、なんかある?」
「はい。テーブルの上に」
「サンキュ」

 キャリーケースを玄関に放置しまま、新垣さんがダイニングへと向かう。
 私はキャリーケースを洗面所に持っていき、洗濯物の仕分けにはいった。

 最近の新垣さんはとても冷たい。
 きっと冬馬さんと再会してから、私に冷たくなったんだと思う。
 それまでは、小さい子をあやすかのように、優しい口調で、包み込むように接してくれてた。

 冬馬さんと再会したことで、私の存在は新垣さんの中で、どうでもいい人間と位置づけされたんだと思う。

 私に何かできれば……そうは思うけど、何をしたらいいのか、わからない。
 できることがあるのなら、何でもしたいと思う。

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