Mail
疑惑
 『ただいま』
 いつものように詩季からメールがきた。
『お帰りなさい。新学期どうだった?』
『担任だって……』
 そしていつものようにその日の出来事を報告し始めた。
『すごいじゃん、担任!おめでとうございます』
『ありがとうございます。でも先生としてはいいかもしれないけど、副担任でも大変だったのに担任なんて……。考えただけで死にそうです……』
 やっぱりこの人は変わってると思う。
 普通担任なんてすごく嬉しいはずなのに。
『メールの回数、減りそうですね……』
『寂しいんですか?』
 楽しそうに書いてるのが目に浮かぶ。
『違います。ただ……昔の話とか聞いてもらえなくなるのかなって……』
 あたしにとって詩季は、いないと寂しいというよりも、いてくれなくてはいけない存在になりつつあった。
『なんかやけに素直ですね。大丈夫。離れたりしません』
 詩季の“大丈夫”は、あたしにはもう、魔法の言葉になっていた。
 他人の大丈夫が心地よく感じたのは、詩季が初めてだ。
『離れませんって、言ってて恥ずかしくないですか?』
『……若干』
 つい可笑しくて笑ってしまった。
 でもこの言葉……。あたしには聞き覚えがあった。
 ―どこで聞いたんだろう……
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