Mail
 『そういえば、櫻さんは学校とか、会社とかないんですか?』
「櫻さんって……」
『櫻さんってやめてもらえます?なんかお婆さんみたい。それに、あたし学校辞めましたから』
『それじゃぁ櫻で。櫻も暇人なんですね』
 この時折使う敬語のせいだろうか。この人のメールを読むと、少し優しい気持ちになる。
『暇人って言い方、やめて下さい。だらしない人間みたいじゃないですか』
『ごめんごめん。でも学校辞めたってことは、十七歳くらいか。学校って懐かしいな。今は何してるの?』
『あたしのことより、あなたのこと教えてください』
 “引きこもり”なんて言えなかった。
『まぁいいや。俺は教師だよ。一応高校教師』
 ―教師……
 別にこの人が悪いわけじゃないが、教師は嫌いだ。
『教師なんだ。教科は何ですか』
『英語。英語は嫌い?』『英語は比較的好きです』
『他は?』
『何がですか』
『他の好きな教科とか、好きな食べ物とか、好きな音楽とか。嫌いな物でもいいですけど』
『好きな食べ物はうどんです。好きな教科は音楽と英語です。好きな音楽はジャズとかいろいろ。ていうか、さっきから質問ばっかりなんですけど』
『だって、これからメールしていくのに、相手のこと何も知らなかったらしにくいでしょ?それに、櫻ってなんか面白いからいろいろ知りたくて』 変な人に面白いって言われるのは、あまり嬉しくない。
 でも、何もなかった毎日に変化が訪れたのは確かだ。
 あたしは少しワクワクしていた。
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