泡沫眼角-ウタカタメカド-


人間でありながら、言乃の声を聞くことが出来る例外もいる。

まずは言乃と同じ血の巡りを持つ家族。
そしてもう一人──言乃とあらゆる意味で対照的な同い年の男──日奈山炯斗だ。


炯斗にいたっては、なぜか言乃と出会った当初から言乃の声を聞くことができ、そのうちに幽霊を見ることが出来るようになったという、言乃にとってはなんとも不思議な存在。
そしてさらに、幽霊の見える力がさらに進化した力“炯眼─ケイガン─”を身に着けた。

言乃であっても幽霊と人間が遠くで並んでいると見分けがつかないのだが、炯眼ならそれも見分けることが出来る上に、なくなった人の痕跡を見ることも出来た。


その力のおかげで、しばらく前に言った島で起こった事件は解決を迎えることが出来たのだ。


──事件……誰も亡くなったりしていなければいいんですが


幽霊に対してどこまでも優しい言乃は、夜闇にか弱い祈りをささげた。
脳裏に浮かんだチャラい男を想いを馳せる。


──そういえば、しばらく会っていませんが、炯斗くんは今何を…いえ、この時間なら寝てますか。


自問を途中で終えて答えを出してしまうが、思う相手は実は現在絶賛爆走中だったりする。


寒い風が言乃の体を震わせた。
春といってもまだまだ序盤。このままでは風邪をひいてしまう。

言乃は窓を閉め、カーテンを引いた。
布団に入ろうとして、ちょっと携帯に目をおくったが、邪魔にならない場所において、また暖かい眠りに入った。


──このまま、何もなく終われば…


まどろんで、思考は途中で終わる。
言乃の願いはどこに届くことなく消えた。


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