泡沫眼角-ウタカタメカド-


屋代言乃は声を出すことが出来ない。
それはつまり“普通の人間に聞こえる声が出せない”ということ。

つまり言乃の声は“普通ではない人間、もしくは人ではないモノ”に聞こえるということだ。

人ではないものの最たるもの、それが“幽霊”だ。
言乃は、そのようなモノたちとしか、会話することが出来ない。

そして、先ほどいた“ぼんやりとしたもの”
それらが幽霊だ。

言乃と同じく人間と会話することが出来ない彼らは、自分たちの声が聞こえる数少ない存在の言乃を好いてよく集まってくる。

だがそれは、同時に他の人間へ危害が及ぶ可能性を高めてもいる。
まだ感じやすい子供などはストレス障害を起こすこともあるし、集まって悪霊になってしまうこともある。

体が薄れてバランスが取れなくなってきた幽霊たちは、問題を起こす前に言乃が除霊をするのが習慣となっていた。

──それにしても、どうして今それをやる気になったのでしょうか…?

夜風に当たりながら、言乃は首をかしげた。

言乃の除霊の仕方はいたって簡単だ。

彼らに向かって、少し力を込めた“言葉”を放てばいいのだ。
言葉によって強制的に霊を使役させることが出来る。
先ほど彼らに放った言葉の『帰って』に従い、彼らが帰るべき場所へ消えていったということだ。


それが言乃の持つ能力“言ノ葉─コトノハ─”の力であった。


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