泡沫眼角-ウタカタメカド-
孤島での事件の時。
言乃が一人で調査に出向いた先で犯人に襲撃されるということがあった。
幸い音を聞き付けた恵がすぐに発見し、言乃に別状はなかった。
今でも、ありありと思い出せるあの恐怖。
目の前に友達が倒れていて、どうしたらいいかわからずパニックになってしまって――
いや、そのことは思い出すまい。
安全な宿に運ばれてきたことのんを見た炯斗は真っ青だった。
その炯斗と今の言乃の顔が重なる。
血相を変えた炯斗は言乃に向かって走って来て―
――ことッ……ことのん!
「え?」
唐突に、現実に引き戻される。
いや、聞き間違いなんかじゃない。
「嘘……」
だってあの時炯斗は
――こと……どうしたんだよ……
間違い、ない。
炯斗は普段彼女を“ことのん”としか呼ばない。
“コト”と呼ぶ人物はただ一人。
先ほど聞いた人物しか思い当たらない。
まさか、と恵の胃をひどく冷たいものが下がっていく。
――炯斗はあの時にはもう、ファントムに…?
【ケイトくんの命が危ないです】
あの事件から既に二ヶ月半が経とうとしている。
何が基準になるのか、恵にはわからないが、危険は、恐らく刻一刻と。
――私に出来ることは、なんだろう
腕を抱え、ブルッと身震いしながら恵は電車を降りて行った。