泡沫眼角-ウタカタメカド-

香田の目の前で炯斗が椅子から崩れた。
慌てて炯斗の腕をとり、体を支える。

「大丈夫か?」


突然のことで流石に狼狽える。

救急車?
いや、警察にバレてしまう。
このまま?
しかし人の目が――


「……ぅ」


崩れた相手が、小さく呻いた。

揺れながらまぶたが開いて、眼鏡の奥の瞳が香田を捉える。


「こう、だ…」


頭を押さえながら、彼はゆっくり起き上がる。


「…香田、今までオレはどうして……ん?」


自分の唖然とした視線に怪訝な顔をする若い男。
香田は僅かな疑念を口にする。


「ファントム殿、でよろしいですか?」


尋ねれば、相手は大きく頭を振って合点がいったと頷いた。


「なるほどな。炯斗が出てたのか」


今、この男は自分の主。
炯斗ではない。


目付きが僅かに変わるばかりだが、雰囲気は大きく違う。
知ってる人間なら、だいたいわかる。


自分でわかるくらいだ。
おそらくあの少女も気づいて――


「ところでさ、香田」

「…なんでしょう」

「そのパフェ何?」


しまった…。

香田は顔回りが暑く感じた。
今見れば、きっと顔色も違うだろう。
ファントムの目はいやらしく半目で笑っている。


「こ、これは炯斗が……!」

「ぶっ、ハハハ! ヤベぇ、似合ってるよ、いいよ香田!」

「いや、そういう訳ではなくっ」


……一人にしろ二人にしろ、悪知恵の働く子供たちだ。

笑い転げるファントムの前で、香田はこの日一番のため息をついた。


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