泡沫眼角-ウタカタメカド-
「そういうな」
「ざっけんなよ! 言うよ! そのおかげで俺は殺人鬼と間違われて追われてる訳だろ?!」
「そのことなんだが…」
ん? と炯斗は動きを止め、考えこんだ香田を見る。
香田は眉を下げつつ腕を組んで言った。
「俺たちはこうしているが、実際には何も行動していないのだ」
「っ、はぁ!?」
じゃあなんで俺は追われてんだよ、と言おうとして香田の手が遮る。
「始めの事件でお前が目撃されたことは偶然だった。吉野が殺された事件、吉野が死ぬ直前に接触したのはファントム殿」
──つまり、他人から見れば俺ってことかよ…
「あの時、本来は吉野を誘いにいったのだ。八年前の屈辱を晴らそう、と。しかしファントム殿はそれをまたの機会にと今回は諦めたのだ」
八年前の、その言葉を炯斗は逃さなかった。
屈辱を晴らす。そしてこの面子。
ファントムの目的はやはり、禅在への復讐だ。
ファントムが吉野に接触した途端に吉野が殺されたということは、敵はファントムのことに感づいてる?
それとも、もともと殺すつもりで…?
いや、それ以前に比津次会の幹部である吉野を殺す意味とは?
考え込む炯斗の視界に、光が舞う。
フ、として目を上げると、続く先には手紙が入った袋。
ファントムが大事に持っていたのだろうか、溢れる光はまぶしい程。
──この、光…俺は他にもどっかで…
記憶を辿る。
「!!」
精神世界、現実。そこで見たモノを思い出し、電流が駆け抜ける。
──まさか、でも、本当に…?
「どうした?」
突然動きを止めた炯斗に、香田は怪訝に首を傾げる。
「もう一回ファントムに会わないと…でも、その前に教えてくれ、香田さん。
ファントムの母さんが亡くなって、その時お腹にいたはずの子供は、一体どうなった?
その子供は、誰だ…?」
隣を見れば、また固まる香田。
震える手で、炯斗は香田の腕をつかむ。
「教えてくれ…香田さん」
「それは…彼は…───」