悪魔のようなアナタ【完】



大学卒業後、玲士は忍村商事に入社した。

選んだ理由はただ単に近かったからというのと、正社員としての身分が欲しかったからだ。

大学時代から株をやっていた玲士は勤めなくても十数年は食べていけるだけの貯蓄がある。

しかしこのご時世、クレジットカード一つ作るにしても部屋ひとつ借りるにしても、正社員の身分がないと非常に不便だ。

というだけの理由で玲士は忍村商事に入社した。

――――晃人の言葉は当たっている。


『君は人生を本気で生きていない』


晃人のような人間から見たら自分は浮草のように見えるのだろう。

そして恐らく灯里も、はっきりとは思わずとも深層心理でそう思っているに違いない。



玲士は静かに窓を開け、外を見た。

家並みの遥か向こうに連なる山の稜線がぼんやりと白んできている。

晩秋の朝の澄んだ空気が玲士の体を包み込む。


「……灯里……」


――――あの闇の中で玲士を救ってくれた、輝く笑顔。

灯里がくれた温かく優しい思い出は、玲士の心を明るく照らしてくれた。


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