悪魔のようなアナタ【完】



灯里と再会してから玲士が会社に行く理由が一つ増えた。

灯里に会うためだ。

入社前はただ面倒臭いだけだろうと思っていた会社生活が、灯里がいるおかげで想像以上に楽しく実りあるものとなった。

けれど。


『君がいくら想いを寄せても、灯里が今の君を受け入れることはないだろう』


晃人の言葉は恐らく真実を突いている。

今の自分は地に足がついていない浮草のようなものだ。

――――今の自分を灯里が好きになることは、ない……。


玲士はベランダに出、手摺に肘をついて指を組んだ。

長い睫毛を伏せ、細く長い吐息をつく。


『君が戦うべきフィールドは、ここなのか?』


晃人の言葉が脳裏に蘇る。


――――決断には時間が必要だ。


が、あまり時間的余裕はない……。

玲士はしばし思い耽った後、踵を返して部屋に戻った。


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