一夏のユーフォリア

しばらく歩いているとまた見覚えのある川に着いた。そこは夏休みにみんなで魚釣りとかバーベキューをした思い出の場所。
「懐かしいな」
靴を脱いで俺は足を水に浸けた。ひんやりとした水が足から伝わってきて少し落ち着いてきた。
何で家出してきたとかどうでもよかった。ただ少しの間だけ一人になりたかっただけなのかもしれない。でも俺の意思は固いらしく地面に置かれたリュックには通帳を含む全財産にそれなりの着替え、電池式充電器、携帯が入っていたから。どうやら俺は当分は帰りそうにないらしい。
「まあ、じいさんばあさんもいるしそこで厄介になるか」
じいさん達にはいつでもおいでと言われていたからならお世話になろうと考えた。どうせ今は夏休みだ。じいさん達も孫が夏休みの里帰りに来たとか思うだろう。
とりあえず朝まで過ごせる場所を探そうと川から上がった瞬間、西の方から水飛沫が上がった。何事かと思い、そちらを見ると月明かりに照らされた異質な白い髪を揺らし水と遊ぶ少女の姿があった。
これが家出少年、西平夕夜の人生で最高の一夏の始まりで出会いだった。

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