嘘つきヴァンパイア様



鼻を掠める甘い香り。背中と頭部に触れる呉羽の熱い熱に驚くもの、抵抗して突き飛ばす事は出来なかった。



「呉羽…さん?」


「呉羽、そう呼んで。涼子、最初はなかなか呼び捨てしてくれなくて、やっと口説いて呼び捨てにしたんだ。振り出しに戻るなんて冗談じゃない!」



どこか、懐かしそうに話す呉羽に涼子は胸が痛んだ。

「ごめん、なさい」


「全く…俺の事だけ忘れるとか最悪だ」



抱きしめていた腕を緩めた。身体を少しだけ引き離し、片手で涼子の頬を包み反対の手でその唇の形を確認するかのように触れていく。


不覚にも、ドキドキした。その濁りのないブラウンの瞳に見下ろされ、涼子の頬も熱を帯びていく。


何をされるのか。なんとなく想像が出来た。



「でも、俺はお前を離さない。だって、涼子を愛しているんだから」


「…あ」


その瞬間、呉羽の唇がそっと涼子の唇に触れた。触れるか触れないかのキス。


「嫌だ?」

「…え、と」



イヤではない。けれど、なんか不思議な気分がした。

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