黒水晶
「姿を現せ!!」
イサは剣を構え、マイたちを守るように彼女達の周りを歩く。
「私はその魔女の杖が欲しいだけで、あなた達と戦いたくはないんだが。
剣術師は苦手だしな……。
でも、そうは言ってられないか。仕方ない」
声の主はそう言うと、突風のごとくイサの目の前に飛んでくる。
イサは一瞬、剣を持つ手を緩めたがすぐに体勢を立て直し相手の姿をつかんだ。
「お前は……! 水の守り神、アルフレド」
「私のことを知ってるのか?」
水色の髪をし、清らかさを絵にかいたように爽やかなその青年は、目を丸めて肩をすくめる。
「剣術を心得ている者として常識だ。
それより、どういうことだ。
水の守り神であるお前が、どうして森にいる?
なぜ、マイの杖を狙う?」
「それは私も訊きたい」
魔術を使うのをやめたエーテルも、アルフレドに尋ねた。
「魔術師と自然の神は協力しあう者同士。
戦う必要はないはず」
マイとテグレンは、真剣に話すみんなの様子を食い入るように見つめていた。
アルフレドはエーテルを一瞥(いちべつ)する。
「ああ。魔術師の君と自然の神である私は、本来なら仲間であり、戦う理由などなかった。
けれど、君達はどういうわけか、その魔女の護衛をしている。
ならば戦うしかない」
「お前がマイの杖を狙っているからか?」
イサがそう訊くと、アルフレドは困ったようにうなずく。
「そうだ。その杖に秘められた水のオーラには限界がない。
今の私には、どうしてもそれが必要だ。
君達の目的は知らないが……。
水の守り神である私が、我々の神殿を抜け出してこんな場違いな場所にいることに、本当に心当たりはないのか?」
アルフレドは鋭い視線をイサとエーテルに注ぎ、最終的にはマイにも向ける。
「どういうことだ?
国からは、何の通達もない」
イサが戸惑い気味に視線をさ迷わせると、エーテルも続いてこう言った。
「私も、国からそのような通達は届いていない。
ただ、私たちがマイに会うべく国を出た直後から、この星全体のオーラの流れに異常がある。
アルフレドがここにいるのもそのせい」