黒水晶
「エーテル…! エーテル……」
マイは氷のように冷たくなったエーテルの右手を両手で包み、何度もその名前を呼ぶ。
フェルトもマイと向かい合う形でエーテルのそばにつき、ひんやりする彼女の左手をにぎった。
「……マ…イ…」
2人の体温が伝わったのか。
エーテルは閉じかかっていた瞳を、残りわずかな力をふりしぼってこじ開ける。
「エーテル……!」
「……マイ。
あり…がとう。
私を…信…じて、ついて…きて…く……れ…て」
「エーテルと旅ができて楽しかった……!
これからも、一緒にいられるよね!?」
「…… … ……」
エーテルの唇は小さく動いているが、声は出せないようで、何を言っているのか聞き取れない。
「て…が……み…」
最期、そう言い残してエーテルは息をひきとった。
たった数分間。
風のように過ぎ去ってしまった出来事。
色濃いのにあっけなかった。
フェルトは唇をかんでうつむき、マイはエーテルに抱きついたままおとなしくなる。