黒水晶

倒れていたエーテルも起き上がる。

「私もイサと同じ。国のためにマイを護衛しているのは確か。

でも、我がルーンティア共和国はマイを愚弄(ぐろう)するようなことを望んではいない。

私もマイの護衛に命をかけられる」

エーテルはマイの目をまっすぐ見つめている。

テグレンは眉間にシワを寄せ、

「私だって、エーテルとイサを疑うわけじゃないさ。

ただ、このローアックスの言うことも、嘘だとは思えないんだよ……。

年寄りの勘なんだがさ……」

エーテルはうつむき、マイも困惑した。

イサも剣を下ろす。

「俺たちも、完全に自由の身ならば全てを話し、マイとテグレンを安心させてあげられるのに……。

今のこの身分が悔しい……。


ただ、ローアックス! お前はそのままにはしておけない!

エーテルも、俺達の大事な仲間だからな!」

と、再び剣を構え、イサはローアックスに飛びかかる。

「私もっ!!」

マイは杖をふりかざした。

「くっ……!!」

マイの杖の力がイサの剣に宿り、すさまじい光が照り付けた。

ローアックスは足を崩して苦しげな息を吐き、

「ふん! これだから魔法使いは嫌いなんだ」

と、面白くなさそうな物言いをし、エーテルの方に術を放った。

自分の力では避けられないと悟ったエーテルは、その場でかたく目をつむる。

ローアックスの術は、無防備で受ければ死に至る威力がある。

マイとイサはローアックスの話に気を取られていたため、エーテルの防御ができなかった。

エーテルの元で物凄い爆発音がしたと同時に、紫色の煙りがモクモクと立ち込める。

「エーテル!!」

みんな嫌な予感で胸をいっぱいにしてエーテルのそばに駆け寄った。

ローアックスはその様子を見て、

「これでいい。ふっ」

と、自信満々に笑みをもらす。


「あらあら。ずいぶんズボラな仕事ですねぇ」

何者かのノンキな声がきこえた。

「誰だ!!」

ローアックスはすごむ。

紫の煙は瞬く間に消え、そこから、気を失ったエーテルを横抱きにしたフェルトが現れた。

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