黒水晶
イサは目を丸めて、その小さな包装袋を受け取る。
「これって……!」
「ああ。マイとコラボして作った、恋が叶うクッキーだ。
マイをここへ呼び戻したいなら、食べるといい。
そうすれば、彼女は君に恋焦がれ、嫌でも自らの意思でここへ戻ってくるだろう」
「マイの意思で、戻ってくる……?」
ルークの言葉を信じ、イサはクッキーを凝視する。
これを食べたら、本当にマイが戻って来てくれるのだろうか?
そんな都合の良い話があるのだろうか?
戸惑いと、若干の不信感を抱く。
イサの心情を察し、ルークは登場した時と変わらず冷静に言った。
「安心していい。
クッキーの効力は永遠だ。
相手が死ぬまで、ずっと消えることはない」
「そっか……」
クッキーを持つイサの手は小さく震えた。
マイは自分の判断でここを出て行った。
でも、これを食べれば、彼女は一生、そばにいてくれる。
自らの意思で戻ってきてくれる。
“本当に、それでいいのか?”
食べて、マイの帰りを待つか。
食べずに、いつ再会できるかわからない彼女を想い続けるか。
イサは、どちらも選べなかった。
このままマイと会えなくなるなんて、悲しいし耐えられない。
かといって、このままクッキーを食べて彼女を連れ戻すのが、本当に正しい選択なのだろうか。
マイの望みや気持ちを無視した行動は取りたくない。
ふたつの選択肢。
イサは、どちらを選んでも後悔するような気がした。
ガーデット城を失ってから昨日までの1年間。
マイが姿をくらまそうとしている様子はなかった。
なのに、なぜ、こうなった?
「1年前からずっと、マイは内心、俺と別れるつもりだったのか?」
「……焦って考えることないよ。
ゆっくり答えを出したらいい。
クッキーは腐らないから、いつ口にしても問題ないよ」
イサに対して申し訳ない気分になり、ルークは無意識のうちに弱々しい口ぶりになった。
“僕が二人のためにしてあげられることなんて、これくらいしかないんだ。
イサ。僕は、君を嫌いなわけじゃない。
なのに、ウソをついてしまって、ごめんな……”