毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 私はどっちの世界で生きたいのだろうか?

 親や友達がいる場所か。信長がいる場所か。

「最初はさ。戦略の一つかと思ってたけど、兄上はあんたに相当、本気みたいだな」

 信包の声がして、私はハッと現実に引き戻された。

 一瞬、信長の声かと思った。

 さすが兄弟。声が似ている。

 縁側に座っている信包が、畳に座りこんでぼけーっとしている私をじっと見ていた。

 あれ? そういえば、いつからそこにいたんだろう。

 私は喉を鳴らすと、きちんと座りなおした。

 ぼけっとして緩んでいた顔を見られていたら、恥ずかしいな。

「そんなこと……」

 ごにょごにょと言葉を濁した。
< 107 / 130 >

この作品をシェア

pagetop