毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
責任を感じているのかもしれない。私が事故に遭ったのを目の前で見ているから。

 婚約者が自分の家を飛び出して、事故に遭ったなんて……私の親に申し訳なくて心が痛くなっただろう。

「もし、このままあっちの世界に行けないのなら、聖君と結婚しちゃったほうがいいと思うけど。お腹の子のために、さ」

 美琴が次に飲む梅酒を店員に頼んでから、私に口を開いた。

「だってさ、誰の子かわからないまま、出産するのはキツいよ。それだったら、すぐにでも聖君とエッチしちゃって、『妊娠しちゃった』って告白したほうがいいと思う」

「聖に悪いよ。それは……」

「もとはと言えば、聖君が悪いんじゃんか! 浮気してなければ、毬亜が事故に遭うこともなかったんだし。昏睡状態にならなければ、あっちの世界に行かなかったんだから」

 まあ、そうなんだけど。

 だからって、信長の子かもしれないお腹の子を、嘘をついて『父親』にはしたくない。

「私、どうしたらいいんだろ」

「だから、聖君とすぐにでもエッチしなさい。んで、出産するの。母親になるなら、少しはしたたかになりなよ」

 美琴が私の肩をバシッと叩いた。

「良い人ってだけじゃ、世の中はうまく生きていけないよ」

 美琴の言う通りかもしれないけど。私にしたたかに生きていけると思う?

 お腹の子が信長の子なら、私は信長と一緒に育てたいよ。

 私はお腹に手をあてると、エコーの画像を思い出した。

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